Andrej Karpathyが提唱する「Claws」とは何か――LLMエージェントの”さらに上”に生まれた新レイヤー

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この記事は、Karpathy氏のX(Twitter)投稿、Simon Willison’s Weblog、GitHub、Wikipedia、Ry Walker氏のブログ等の公開情報をもとに要約・解説したものです。各情報の出典は本文中および末尾に記載しています。

2026年2月21日、元OpenAI共同創業メンバー・元Tesla AI部門責任者のAndrej Karpathy氏がX(旧Twitter)上で投稿し、「Claws(クローズ)」という概念について語りました。テックブロガーのSimon Willison氏も同日のブログ記事でこれを取り上げ、「Claw」がOpenClawに類似するAIエージェントシステム全体を指すカテゴリ用語として定着しつつあると指摘しています。

Karpathyが語った「Claws」の位置づけ

Karpathy氏は新しいMac Miniを購入した理由について、「週末にClawsを自分で触るため」と投稿しています。同氏のポストから要点を整理します。

  • LLMエージェントがLLMの上に生まれた新しいレイヤーだったように、ClawsはLLMエージェントのさらに上に生まれた新レイヤーである
  • Clawsは、オーケストレーション、スケジューリング、コンテキスト管理、ツール呼び出し、そして一種の永続性を次のレベルに引き上げるものである
  • 一方で、OpenClawについては「40万行のバイブコーディングされた巨大コード」に自分のプライベートデータや鍵を預けることには懸念があり、「RCE脆弱性、サプライチェーン汚染、悪意あるスキルの報告がすでにある」「完全なワイルドウェストでセキュリティの悪夢」と率直に警告している
  • NanoClawのようにコアエンジンが約4,000行のコードで、コンテナ内で動作する軽量な実装については「自分の頭にもAIエージェントの頭にも収まるサイズ」で監査可能・柔軟だと評価している
  • NanoClaw以外にも nanobot、zeroclaw、ironclaw、picoclaw など多くの派生プロジェクトが生まれている(Karpathy氏自身が「プレフィックス合戦」とコメント)

Simon Willison氏は、Karpathy氏が「vibe coding(バイブコーディング)」や「agentic engineering(エージェンティック・エンジニアリング)」など新しい用語を広めてきた実績を踏まえ、「Claw」が個人ハードウェア上で動作し、メッセージングプロトコル経由で操作するAIエージェントシステム全般を指すカテゴリ用語になりつつあると分析しています。

そもそもOpenClawとは何か

Clawsの概念を理解するには、その原点であるOpenClawを知る必要があります。

Wikipediaの記事およびTechCrunchの報道によると、OpenClaw(旧称Clawdbot → Moltbot)はオーストリアの開発者Peter Steinberger氏が2025年11月に公開したオープンソースのパーソナルAIエージェントです。2026年1月末に爆発的に普及し、GitHubスター数は現在21万を超えています(2026年2月23日時点)。Steinberger氏は2026年2月14日付の自身のブログでOpenAIへの入社を発表し、プロジェクトはオープンソース財団に移管する方針を示しています。

OpenClawの主な特徴は以下のとおりです(GitHub公式リポジトリおよびWikipediaの記述に基づく)。

  • ローカル実行:自分のPC、Mac Mini等で動作し、データが外部に出ない設計
  • メッセージングアプリ経由の操作:WhatsApp、Telegram、Slack、Discord、Signalなど多数のチャネルに対応
  • 実際にタスクを実行する:ファイル操作、シェルコマンド実行、ブラウザ自動操作、スケジュールタスクなど「会話だけでなく行動する」エージェント
  • 永続メモリ:会話履歴やユーザーの好みをローカルに保存し、セッションをまたいで記憶を保持
  • モデル非依存:Claude、GPT、DeepSeek、ローカルLLMなど任意のモデルと組み合わせ可能

AIスタックの3層構造

Karpathy氏の投稿を踏まえると、現在のAIスタックは以下のような3層構造で整理できます。

  • 第1層:LLM(大規模言語モデル) — テキスト生成・理解の基盤。Claude、GPT、DeepSeekなど
  • 第2層:LLMエージェント — LLMにツール使用能力を与えた存在。コード実行、Web検索、API呼び出しなどを行う
  • 第3層:Claws — エージェントのオーケストレーション層。複数のエージェントの管理、スケジューリング、永続メモリ、メッセージングルーティングを担う「常時稼働の個人AIアシスタント基盤」

この区分で見ると、ChatGPTやClaudeに質問するのが第1層の体験、Claude Codeやカスタムエージェントでタスクを自動化するのが第2層、OpenClawを自宅のMac Miniで24時間動かしてWhatsApp経由で指示を出すのが第3層(Claws)ということになります。Karpathy氏自身の言葉を借りれば、「まずチャットがあり、次にコードがあり、今度はClawだ」という進化です。

「Claws」エコシステムの急拡大

Ry Walker氏のブログ記事(2026年2月)では、OpenClawを起点としたClawsエコシステムが34以上のプラットフォームに拡大していると整理されています。同記事で紹介されている主なプロジェクトは以下のとおりです(スター数等の数値は同記事掲載時点のもの)。

  • NanoClaw — コアが約4,000行のPython。Docker/Appleコンテナによる隔離を標準装備。Karpathy氏が投稿で言及したプロジェクト
  • NanoBot — OpenClawの大幅に軽量化された実装。pipインストール可能で、中国のプラットフォーム(Feishu、DingTalk、QQ)にも対応
  • PicoClaw — エッジハードウェア向け。Go言語の単一バイナリで極めて少ないリソースで動作
  • ZeroClaw — WASMサンドボックスを備えたセキュリティ重視の実装
  • AstrBot — 中国エコシステム向け。QQ、WeChat Work、Feishu、DingTalkに対応し多数のプラグインを提供

なお、各プロジェクトのGitHubスター数や詳細な仕様は急速に変動しているため、最新情報は各リポジトリで確認することを推奨します。

セキュリティ上の懸念

Clawsの急速な普及に対しては、セキュリティ面での深刻な懸念が複数の情報源から指摘されています。

まず、Karpathy氏自身が投稿の中でOpenClawのセキュリティリスクに言及しています。同氏は、公開されたインスタンス、RCE(リモートコード実行)脆弱性、サプライチェーン汚染、悪意あるスキル(拡張機能)の存在を挙げ、現状を厳しく評価しています。

Wikipediaによると、Ciscoのセキュリティ研究チームがサードパーティのOpenClawスキルをテストした結果、ユーザーの認識なしにデータ流出とプロンプトインジェクションが行われたと報告しています。スキルリポジトリには悪意ある投稿を防ぐための十分な審査が欠けているとの指摘です。

また、OpenClawのメンテナーの一人(Shadow氏)がDiscordで「コマンドラインの操作方法を理解できないなら、このプロジェクトは危険すぎる」と警告していることもWikipediaに記録されています。

主なリスクをまとめると以下のとおりです。

  • フルシステムアクセス権限(シェルコマンド、ファイル操作)を持つため、設定ミスが深刻な被害につながりうる
  • プロンプトインジェクション攻撃に対して脆弱で、外部データに埋め込まれた悪意ある指示をLLMが正当なユーザー指示として解釈する可能性がある
  • スキル(プラグイン)エコシステムの審査が不十分で、サプライチェーン攻撃のリスクがある

開発者にとっての意味

Clawsという概念が注目される理由は、単に「便利なAIツールが増えた」という話ではなく、AIアプリケーションのアーキテクチャに新しい層が加わったという構造的な変化を示している点にあります。

LLM → エージェント → Clawsという進化は、Webの世界で「サーバー → アプリケーションフレームワーク → オーケストレーション基盤(Kubernetes等)」と層が積み上がった流れに似ています。各層で専門のツールや設計パターンが生まれ、エコシステムが形成されるという構造です。

ただし、Karpathy氏が「まだ自分のセットアップが最終的にどうなるかわからない」と投稿で明言しているように、Clawsはまだ黎明期にあります。どのプロジェクトがデファクトスタンダードになるか、セキュリティ課題がどう解決されるかは定まっていません。特に、Karpathy氏がOpenClaw自体のセキュリティに対して慎重な姿勢を見せていることは、このカテゴリ全体が抱える課題の大きさを象徴しています。

それでも、個人のハードウェア上で常時稼働する自律型AIアシスタントという方向性自体は、多くの開発者やVCが本格的に取り組み始めている領域であり、今後の動向を注視する価値があるテーマです。

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